大判例

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神戸地方裁判所 昭和28年(ワ)516号 判決

原告 吉川一雄

被告 藤井寅雄

一、主  文

被告は原告に対し、二六四、〇〇〇円及び、

内二三、〇〇〇円に対する昭和二八年三月一一日より、

五三、〇〇〇円に対する昭和二八年三月一六日より、

五〇、〇〇〇円に対する昭和二八年三月二一日より、

三〇、〇〇〇円に対する昭和二八年四月一一日より、

三〇、四〇〇円に対する昭和二八年四月一六日より、

四七、六〇〇円に対する昭和二八年四月二六日より、

三〇、〇〇〇円に対する昭和二八年五月六日より

各支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払うこと。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において七〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

但し被告において、一〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、

主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として、

「原告は被告が振出した左記(イ)ないし(リ)の約束手形計九通をいずれも白地裏書により前者より適法に譲受け、現に之が所持人である。

(イ)  額面 二三、〇〇〇円

満期 昭和二八年三月一〇日

支払地 神戸市

支払場所 株式会社神戸銀行湊川支店

振出地 神戸市

振出日 昭和二八年一月一〇日

名宛人 島川遊三

裏書人 同人

(ロ)  額面 二〇、〇〇〇円

満期 昭和二八年三月一五日

振出日 昭和二八年一月一五日

支払地、支払場所、振出地、名宛人、裏書人は(イ)と同じ

(ハ)  額面 三三、〇〇〇円

満期、支払地、支払場所、振出地、振出日、名宛人は(ロ)に同じ、

裏書人 島川遊三及び堀川敏夫

(ニ)  額面 五〇、〇〇〇円

満期 昭和二八年三月二〇日

振出日 昭和二八年一月二〇日

支払地、支払場所、振出地、名宛人、裏書人は(イ)に同じ、

(ホ)  額面 三〇、〇〇〇円

満期 昭和二八年四月一〇日

振出日 昭和二八年二月五日

支払地、支払場所、振出地、名宛人は(イ)に同じ

裏書人 島川遊三及び細川潔

(ヘ)  額面 三〇、四〇〇円

満期 昭和二八年四月一五日

振出日 昭和二八年二月三日

支払地、支払場所、振出地、名宛人、裏書人は(イ)に同じ、

(ト)  額面 一七、六〇〇円

満期 昭和二八年四月二五日

振出日 昭和二八年二月八日

支払地、支払場所、振出地、名宛人、裏書人は(イ)に同じ、

(チ)  額面 三〇、〇〇〇円

満期 昭和二八年四月二五日

振出日 昭和二八年二月一〇日

支払地、支払場所、振出地、名宛人、裏書人は(イ)に同じ、

(リ)  額面 三〇、〇〇〇円

満期 昭和二八年五月五日

振出日 昭和二八年二月一〇日

支払地、支払場所、振出地、名宛人、裏書人は(イ)に同じ、

原告は前記各手形を各その呈示期間内に支払場所に呈示して支払を求めたが、いづれも支払を拒絶せられた。

よつて前記各手形の振出人である被告に対し、各手形金並に満期の翌日以降支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。」

と述べ、

被告の抗弁に対し、

「原告が悪意の取得者であるとの点は否認する。又原告は貸金業を行つている者ではない。仮に業として行つているとしても、それは貸金業等取締に関する法律の違反になるかも知れないが、本件手形譲受けそのものゝ無効を来たすものではない。」

と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決並に被告敗訴の場合は保証を条件とする仮執行免除の宣言を求め、

答弁として、

「原告主張の約束手形九通を被告が訴外島川遊三に宛てゝ振出したこと、原告が右手形の裏書譲渡を受けて現在これが所持人であることは認める。

然しながら、原告は悪意の取得者であるから、被告は支払義務はない。即ち、右手形はいづれも原因関係のない手形であつて、被告と訴外島川との間に特約があり、被告に支払責任のない手形である。被告は手形に関する法規に暗いところから島川遊三の依頼を受け、深い考なしに本件手形に署名し島川に交付したもので始めは乙第一号証の様な返り証を島川より得ていたが後にはかゝる書面をも得ず、島川の言に安心して本件手形を発行したものであるが、原告は本件手形が被告と訴外島川との間に右の如く原因関係なく振出されたこと、従つて被告に支払責任のないことを知りながら取得したものである。

仮に右抗弁が理由ないとしても、貸金業等取締に関する法律(昭和二四年法律第一七〇号)第五条によれば「貸金業者でなければ貸金業を行つてはならない」と規定せられ、又第一四条には「何らの名義をもつてするを問わず、又いかなる方法をもつてするを問わず、第五条及び………の規定による禁止を免れる行為をしてはならない」とありこれらの規定に違反すれば、同法第一八条により三年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科せられる罰則があり、前記法条は強行法規であるが、原告は右規定に違反し、届出をなさずにいわゆる闇金融を業としているものであつて、原告が本件手形を取得したのは、いづれも島川遊三に対し、月五分ないし六分の高利で手形割引の方法で金銭を交付したものである。前記法律第一四条の「いかなる名義をもつてするを問わず、又いかなる方法をもつてするを問わず」の中には右の如き手形割引という方法による金融も含まれること勿論であるから、原告の本件手形取得は同条及び民法第九〇条に違反するものである。右貸金業等取締に関する法律の制定の理由は第一条に明記されている如く「貸金業等の取締を行い、その公正な運営を確保すると共に不正金融を防止し、もつて金融の健全な発達に資することを目的」としたものであつて、現下の金融事情をにらみ合すとき右法律の主目的は特に資金の闇流出を禁圧するものと解せられる。右法律自体にはその違反行為につき刑事上の制裁を規定するのみで、私法上の効果については別段規定していないけれども、民法第九〇条の趣旨は、問題となつている或法律行為に基きその当事者にその義務の強制的実現をなさしめることが国家の法律の根本思想に反する場合にその法律行為の効力を否認しようというのであるから、不法な動機が法律行為の条件にされている場合とか、不法な動機が表示されてその内容となつている場合のみならず、裁判所において不法な動機の存在が認められ、その法律行為に基く請求を認めることか現行法規一般から言つて公序良俗に反すると考えられる場合はすべてこれを無効とすべきで、そう解釈しなければ、右法条の目的の大半は失われてしまうのである。闇金融で金を貸して手形を割引いても、債権者としてその支払を請求できないと言うことが裁判上確定されることは原告にとつて刑罰以上の痛手でありこゝに始めて法律制定の大目的が達せられることになる訳で、以上の理由から原告の本件手形の割引は無効であり、手形上の権利は取得していないものと言うべきである。

従つて原告の請求は理由がない。」

と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告主張の手形九通を被告が振出したこと、原告が右手形の裏書譲渡を受けて現在これが所持人であることは被告の認めるところである。

被告は本件手形は原因関係なく振出されたもので、原告は右事情を知りながら取得したものであるから支払義務がないとの主張につき考えるに、証人島川遊三の証言並に被告本人の供述によれば、本件手形はいわゆる融通手形として振出されたものであることが認められる。凡そ融通手形なるものは被融通者にその手形を利用させて金銭をえ、又はえたのと同一の効果を受けさせる目的で交付されるものであるから、融通者は被融通者より直接手形金の請求をして来た場合に限り支払を拒絶できるにすぎず、被融通者以外の者が手形所持人として請求して来たときには融通手形の故を以つて支払を拒絶しえないことは融通手形というものの性質上当然のことであつて、この事はその手形所持人が融通手形であること知つているかどうかによつて異るべきではないから(昭和二年四月二一日大審院判例参照)この点についての被告の抗弁は理由がない。

次に原告が島川から本件手形を取得したのは貸金業等の取締に関する法律並に民法第九〇条に違反して無効であるとの被告の抗弁につき考えるに、成程右法律には被告の主張するとおり、第五条には「貸金業者でなけれは貸金業を行つてはならない」、第一四条には「何らの名義をもつてするを問わず、又いかなる方法をもつてするを問わず、第五条………の規定による禁止を免れる行為をしてはならない」と規定せられ、これらに違反したときは第一八条により、三年以下の懲役若しくは三〇万円以下の罰金に処せられ、又はこれを併科されることになつており、又第二条第二項によれば手形の割引による金銭の交付は同法にいう貸金とみなされているが、一般に法律が公益上の理由から一定の行為を禁止している場合の中にも、違反者に制裁を課するにとゞめ、私法上の効果にふれないものと、違反行為の私法上の効果を否認することを目的とする場合とがあるが、ひるがえつて前記法律についてこれをみるに、同法の目的とするところは金銭の貸付という法律行為そのものを禁止せんとするものではなく、同法第一条に示す様に、貸金業等の公正な運営を保障するとともに不正金融を防止し、もつて金融の健全な発達をはからんとする行政上の取締にあるのであるから、同法に違反して手形割引による金銭の貸付その他の法律行為をした場合にも、その違反者が刑事上の制裁を受けるにとゞまり、法律行為そのものの私法上の効果を無効ならしめるものではないと解する。

そうするとたとえ原告が本件手形を取得した当時届出なくして貸金業を行つていたとしても、その故に本件手形の取得の無効を来すものと言うことにはならないから、この点についての被告の抗弁も採用できない。

そうすると原告がその主張する九通の手形の金額の合計二六四、〇〇〇円と各手形金に対する各手形の満期の翌日以降支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払とを求める原告の本訴請求はその理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を、被告の申立にかゝる仮執行免除の宣言につき同条第二項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村三郎)

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